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データ活用は「分析」より先に「計測」から ― 中小企業が最初に整える3つのこと

「データに基づいて判断したい」と考える企業は増えています。ところが実際には、分析ツールを入れたのに数字を見なくなった、レポートはあるが次の打ち手につながらない、という声もよく聞きます。

その原因は、分析のスキルよりも手前の「計測環境」にあることが少なくありません。この記事では、データ活用を始める中小企業が、分析の前に整えておきたい3つのことを順に紹介し、整える前と後で何が変わるかを仮の数字で示します。

計測を整えると何が答えられるようになるのかは、1つの会社の前と後を並べると分かりやすくなります。この記事では、次の会社を例に話を進めます。

この記事で使う事例(仮の数字)

  • 法人向けのサービスを扱う会社(架空の会社)。サイトへの訪問は月3,000、問い合わせは月10件ほど
  • GA4は入っているが、問い合わせは成果として設定されておらず、営業が月末に件数を数えているだけ
  • 広告費は月30万円
  • 計測を整えた後に分かった先月の問い合わせ10件の内訳は、検索5件・広告3件・その他2件

分析が進まない本当の理由

データ活用がうまくいかないとき、「分析できる人がいない」ことが原因だと考えがちです。しかし、その前の段階でつまずいているケースが多くあります。代表的なのは次の3つの状態です。

  • そもそも、見たい数字が計測されていない
  • 計測はしているが、問い合わせや購入などの「成果」が記録されていない
  • 数字があちこちのツールに散らばっていて、見るのに手間がかかる

この状態では、どれだけ優秀な分析者がいても判断に使える材料が揃いません。料理にたとえるなら、腕の良い料理人がいても、食材が冷蔵庫に入っていない状態です。分析は、正しく計測されたデータがあって初めて成り立ちます。

自社がどの状態かは、簡単な質問で確かめられます。「先月、Webサイトからの問い合わせは何件で、そのうち検索から来た人は何件でしたか」。GA4を開いて5分以内に答えられなければ、分析より先に計測を整える段階です。答えられない理由が「成果が記録されていない」のか「見る場所が分からない」のかで、次の一手も変わります。事例の会社は、前者でした。

分析の担当者を採用したり、外部に分析を頼んだりする前に、この確認をしておく価値があります。計測が整っていない状態で分析を頼むと、最初の数か月は計測の整備に費用が使われ、分析の結果はなかなか出てきません。外部に頼む場合も、「成果が数えられているか」を最初に確かめてもらうよう依頼してください。

最初に整える3つのこと

計測環境は、「決める」「数える」「まとめる」の3つのステップで、この順に整えます。順番を逆にして、ツールの設定から始めると、何を数えればよいかが決まらず手が止まります。1つずつ見ていきます。

1. 目的と見るべき数字を、紙1枚に書き出す

最初にやるべきことはツールの設定ではなく、「何のためにデータを見るのか」を決めること。最終的な目標(KGI)と、その達成度を途中で確かめるための指標(KPI)を書き出します。問い合わせを増やしたいBtoB企業なら、たとえば次のようになります。

  • KGI:月間の商談数
  • KPI:問い合わせフォームの送信数、資料ダウンロード数
  • KPIに影響する数字:サービスページの閲覧数、流入元ごとのアクセス数

ここで決めた数字が、次のステップで「何を計測するか」の設計図になります。見る数字は、最初は5つ程度までに絞るのがおすすめです。KGIとKPIの関係はKPIとKGIの違い ― 毎週見る数字はどちらかで詳しく扱っています。

2. GA4とGTMで「成果」まで計測する

Webサイトの計測には、Googleが無料で提供しているGoogleアナリティクス4(GA4)が広く使われています。以前のユニバーサルアナリティクス(UA)は2023年7月にデータの処理を終了しているため、今から始めるならGA4一択です。あわせてGoogleタグマネージャー(GTM)を導入しておくと、計測用のタグをサイトのプログラムに直接書き込まずに管理でき、あとから計測項目を増やすときもサイトの改修を待たずに対応できます(Googleタグマネージャーの始め方 ― 最初に入れるのは1つだけ)。

大切なのは、アクセス数だけでなく、ステップ1で決めた「成果」をキーイベントとして設定することです。フォームの送信完了や資料のダウンロードが記録されていなければ、どの施策が成果につながったのかを判断できません。設定したら、自分でテスト送信をして、数字が1件増えることを必ず確かめてください(GA4の「キーイベント」設定 ― 問い合わせ完了を成果として数える)。

3. 見る場所を1つにまとめる

GA4、Google Search Console、広告の管理画面、売上データ……と見る場所が分かれていると、確認するだけで時間がかかり、やがて誰も見なくなります。そこで役立つのが、無料のBIツールLooker Studio(旧Googleデータポータル)です。複数のデータをつなぎ、ステップ1で決めた数字だけを1枚のレポートにまとめられます。

「毎週月曜の朝にこの画面を見る」と決めておけば、数字を見る習慣が定着しやすくなります。作り方はLooker Studioでレポートを1枚にまとめるで扱っています。よくある状態ごとの最初の一手は、次のとおりです。

よくある状態 最初の一手
何を見ればいいかわからない KGIとKPIを紙1枚に書き出す
アクセス数しか見ていない 問い合わせ完了などをキーイベントに設定する
レポートを作っても見なくなる Looker Studioで1枚にまとめ、見る日を決める

3つのステップを回す時間の目安も示しておきます。ステップ1の書き出しは1時間、ステップ2の設定とテスト送信は半日、ステップ3のレポート作りは半日で、合わせて2日ほどです。社外に頼む場合も、ステップ1だけは社内で書いてから渡してください。何を成果とするかは、外部の人には決められないからです。

整える前と後で、何が変わるか

計測を整えると何ができるようになるのかを、事例の会社で示します。整える前は、GA4に訪問数はあるものの、問い合わせは成果として設定されておらず、営業が受けた件数を月末に数えているだけでした。整えた後に、社内でよく聞かれる3つの質問への答えがどう変わったかを並べます。

聞かれたこと 整える前の答え 整えた後の答え(事例・仮の数字)
先月の問い合わせは何件か営業に聞かないと分からない10件(レポートの最上段)
どこから来た人が問い合わせたか分からない検索5件、広告3件、その他2件
広告費30万円は見合っているか判断できない1件あたり10万円。商談化の割合と合わせて検討

整えた後でも、答えがすべて出るわけではありません。広告経由の3件が本当に広告のおかげなのか、広告が無くても問い合わせたのかは、この数字だけでは分かりません。それでも「1件あたり10万円」という材料があれば、「商談になった割合を見て、半年後に予算を見直す」という判断の筋道を立てられます。

整えた後の最初の3か月は、数字そのものより「毎月同じ数字が出てくるか」を見る期間と考えてください。1か月目は設定の漏れが見つかることが多く、2か月目にようやく比べられる数字がそろい、3か月目で初めて前月との比較が意味を持ち始めます。この期間に大きな判断をせず、記録を続けることが、後の判断の土台になります。上の3つの質問に答えられる状態を、最初の目標にしてください。

始めるときの落とし穴

計測環境づくりでよくある失敗が3つあります。どれも、熱心に取り組むほど陥りやすいものです。最初に知っておけば、遠回りを避けられます。

  • 最初から全部を計測しようとする:項目が増えるほど設定ミスも増え、結局どの数字も信用できなくなります。まずはステップ1で決めた数字に絞りましょう。
  • ツールの導入がゴールになる:GA4を入れただけでは何も変わりません。「数字を見て、次に何をするか」までが一連の流れです。
  • 見る人と見る日が決まっていない:担当者とタイミングを決めないと、レポートはすぐに放置されます。

もう1つ、設定した計測が「壊れていないか」の点検を定期的に行う習慣も大切です。サイトのリニューアルでフォームの完了ページのURLが変わり、成果の計測が何か月も止まっていた、ということは珍しくありません。月に1回、テスト送信で成果が数えられるかを確かめるだけで防げます(計測が壊れていないか ― 月1回の点検リスト)。

法令の面にも触れておきます。2023年6月に施行された改正電気通信事業法の「外部送信規律」により、事業の内容によっては、サイトに設置したタグなどで利用者の情報を外部に送る場合に、その内容を公表することなどが求められます。自社が対象になるかどうかは、総務省の案内などで確認してください。

落とし穴にはまったと気づいたら、いったん計測の項目を減らすところから立て直します。成果と流入元の2つだけが正しく数えられている状態に戻し、テスト送信で確かめ、1か月記録を続ける。そのうえで、判断に要る項目を1つずつ足していけば、どの数字も信用できる状態を保てます。

立て直しの目安は、「全員が同じ数字を信じているか」です。営業が見ている問い合わせの件数と、GA4の件数と、レポートの件数がばらばらなら、まずそのずれを1つずつ説明できるようにします。数字が信じられない状態で分析を重ねても、結論は誰にも採用されません。

社内への説明の仕方

計測を整える作業は、すぐに売上が増える仕事には見えません。そのため、上司や経営者から「分析して、何か結果を出してほしい」と求められ、計測の整備を後回しにせざるを得ないことがあります。計測に時間を使う理由を、相手が判断に使える言葉で説明しておくことが大切です。

説明の骨組みは、次の3つです。事例の会社の言い方を例に入れています。

  1. 今、答えられない質問を示す:「広告費30万円のうち、問い合わせにつながった分がいくらかは、今は答えられません」
  2. 整えると答えられるようになることを示す:「成果の計測を整えれば、来月から流入元ごとの問い合わせ件数が出せます」
  3. かかる時間と、いつ最初の数字が出るかを示す:「設定と確認で合わせて2日、最初の月次の数字は来月の第1週に出ます」

ポイントは、「分析のために計測が要る」ではなく、「この判断に答えるために計測が要る」と話すこと。経営者が気にしているのは、多くの場合、広告費や人の時間を増やすか減らすかの判断です。その判断に必要な数字が今は無い、と具体的に示すと、計測の整備が判断を早くするための投資として伝わります。

よくある誤りは、計測が整う前に、手元にある訪問数だけで「成果」を報告してしまうことです。訪問数が伸びた月に「効果が出ています」と報告すると、問い合わせが伸びていなかったと後で分かったときに、数字そのものへの信頼を失います。整うまでは、「今は訪問数しか分からない。成果の数字は◯月から出せる」と、分かる範囲を正直に伝えてください。

まとめ

データ活用は、高度な分析から始める必要はありません。目的を決め、成果まで計測し、見る場所を1つにまとめる。この3つが揃えば、日々の判断にデータを使える土台ができます。データ活用の第一歩は、分析ではなく計測を整えること。下のチェックリストで埋まっていない項目を1つ選び、今月中に埋めてください。

計測環境チェックリスト

  • KGIとKPIが書き出されている
  • GA4とGTMがサイト全体に設置されている
  • 問い合わせや購入などの成果がキーイベントとして記録されている
  • 見るべき数字が1つのレポートにまとまっている
  • レポートを見る担当者と日程が決まっている

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施策の効果測定と実験設計が専門。 世に出ている成功事例の多くは、比較対象が置かれていないか、社会的背景と施策が分離されていないにもかかわらず、なぜか過去の多数の失敗事...

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