コラム

ブログ

集める・つなぐ・判断するの3つに分ける

データマーケティングとは ― 何をすることなのか

「データマーケティング」という言葉は、話す人によって指す範囲が違います。広告の配信先を自動で決めることを指す人もいれば、顧客データベースを整えることを指す人もいます。言葉の定義そのものより、自社では何をすることなのかを決めるほうが先です。この記事では3つの作業に分けて整理します。

3つの作業がそれぞれ何を指すのかは、1つの会社に当てはめてみると見えやすくなります。以下では、次の架空の会社を最後まで例に使います。

この記事で使う事例(仮の数字)

  • 社員10人ほどのBtoBの会社(架空の会社・仮の数字)。Webの担当者は営業との兼務で1人
  • サイトの問い合わせは7月6件、8月5件、9月7件(7〜9月の合計18件)
  • 同じ7〜9月の受注は3件。営業の管理表にだけ記録している
  • 9月15日に料金ページを更新した

データマーケティングを構成する3つの作業

呼び方はさまざまですが、やっていることは「集める」「つなぐ」「判断する」の3つに分けられます。こう分けると、自社がどこでつまずいているかが言えるようになります。「データ活用が進まない」という悩みも、多くはこのどれか1つの問題です。

作業 中身 つまずきやすい点
集める サイトの行動、問い合わせ、受注などを記録に残す そもそも記録されていない。後から遡れない
つなぐ 別々の場所にあるデータを、同じ顧客・同じ案件として結ぶ つなぐ鍵(IDやメールアドレス)を決めていない
判断する 次に何をするかを、数字を根拠に決める 見るだけで終わる。判断の基準が決まっていない

世の中で紹介される事例は「判断する」の話が中心です。しかし実際に時間がかかるのは、その手前の2つです。事例の華やかな部分だけを見て始めると、材料がそろっていないことに後から気づきます。

自社がどこで止まっているかは、次の3つの問いで見当が付きます。

  • 先月の問い合わせ件数を、電話も含めて5分以内に答えられるか(答えられなければ「集める」で止まっている)
  • 先月受注した案件が、最初にどの流入元から来たかを答えられるか(答えられなければ「つなぐ」で止まっている)
  • 数字が下がったときに、次に何を確かめるかが決まっているか(決まっていなければ「判断する」で止まっている)

「つなぐ」の中身を、事例で見ておきます。事例の会社では、サイトの問い合わせが7〜9月で18件と記録され、営業の管理表には同じ期間の受注が3件と記録されています。両方の数字はあっても、「どの問い合わせが受注になったか」が結ばれていなければ、どの流入元の問い合わせが売上につながりやすいかは分かりません。問い合わせの日付とメールアドレスを営業の表にも書き写しておけば、18件と3件を突き合わせられます。

当てはまらない場合もあります。問い合わせが月に数件で、担当者が全件を覚えていられる規模なら、仕組みでつなぐ必要はまだありません。1件ずつ「どこで知ったか」を聞き、表に1行書くだけで「つなぐ」は足ります。仕組みを作るのは、手で追えなくなってからで構いません。

なぜ「集める」から始めるのか

分析は、記録が残っている範囲でしかできません。先月の記録が無ければ、先月のことは分析できないからです。計測の設定は「今日から先」にしか効かず、過去には遡れません。この順番を飛ばすと、次のようなことが起きます。

  • 問い合わせが増えた理由を知りたいが、どの流入元から来たかを記録していない
  • キャンペーンの効果を見たいが、実施前の数字を残していない
  • 電話での問い合わせは数えていなかったので、成果の総数が分からない

最初に集める記録は、多くなくて構いません。優先するのは次の3つです。

  1. 成果の件数:フォームの送信、電話、メールを合わせた問い合わせの数
  2. 成果の流入元:検索、広告、紹介、展示会など、どこから来たか
  3. 自社の変化の記録:広告を始めた日、サイトを直した日、値上げした日などの出来事

3つ目は見落とされがちですが、後で数字の変化を説明するときにいちばん役に立つ記録です。数字が動いた月に何をしたかが分からなければ、施策の効果か、季節や景気の影響かを分けられません。日付と出来事を1行ずつ書くだけで足ります。

どれも、分析したくなった時点ではもう手遅れです。仮に今月から計測を始めても、「前年の同じ月と比べる」ことができるのは1年後になります。だからこそ、分析の必要が出る前に整えておく必要があります。詳しくはデータ活用は「分析」より先に「計測」から ― 中小企業が最初に整える3つのことをご覧ください。

よくある誤りは、「集める」を「ツールを入れること」と取り違えることです。GA4を入れても、問い合わせの完了を成果として登録していなければ、成果の件数は集まっていません。電話の問い合わせを誰も記録していなければ、その分も抜け落ちます。集まっているかどうかは、「先月の成果は何件か」を実際に数えてみて、ツールの数字と手元の記録が合うかで確かめてください。

ツールを入れても進まない理由

GA4、MAツール、BIツールを導入したのに使われていない、という状態はよくあります。原因はツールの機能ではなく、決めていないことにあります。ツールは決めたことを速く回す道具であって、何を決めるかは教えてくれないからです。決めていないことは、次の3つにまとめられます。

決めていないこと 起きること
何を成果と呼ぶか 問い合わせと見積もり依頼、資料請求の重みが決まらず、どの数字を見ても判断できない
誰がいつ見るか レポートが誰にも読まれない。月数件の成果を毎週見て、偶然の増減に振り回される
数字が動いたときの行動 数字を見た後に議論が始まり、結論が出ないまま次の月になる

3つ目の「数字が動いたときの行動」は、ルールとして先に書いておきます。例えば「問い合わせが2か月続けて前年の同じ月を下回ったら、流入元別の内訳を見る」「特定の流入元が半分以下になったら、計測が壊れていないかを先に確かめる」といった形です。こう決めておくと、数字を見たその場で次の行動に移れます。決めていないと、下がった理由の推測だけで会議の時間が終わります。

見る頻度の基準は、数字が動く速さ。事例の会社は成果が月5〜7件なので、1週あたりでは1〜2件です。これを毎週見ても、0件の週と3件の週の差はほとんど偶然なので、月単位で見るほうが判断を誤りません。週ごとに見るのは、広告費のように毎日動く数字だけで足ります。

最初の1か月でやること

最初の1か月でやることを順番に並べると、次の4つです。いずれも新しいツールの契約は不要です。目的は、翌月から「先月と比べてどうか」を言える状態を作ることにあります。

  1. 成果を1つ決める。複数あるなら、いちばん売上に近いものを選ぶ
  2. その成果を計測できているか確認する。フォーム送信だけでなく、電話・メールも数える
  3. 流入元が区別できるか確認する。広告やメールからの訪問にUTMパラメータを付ける
  4. 毎月の記録を1枚にまとめる。訪問数・成果数・成果率の3つで足りる

1か月の進め方の目安は、1週目に成果を決め、2週目に計測を確かめ、3週目にUTMパラメータの付け方を整え、4週目に記録の表を作る、という順です。事例の会社の記録の表は、次のような形です(仮の数字)。

月 訪問数(回) 成果数(件) 成果率(%) その月の出来事
7月 1,800 6 0.33 特になし
8月 1,500 5 0.33 お盆休み(営業日が少ない)
9月 2,000 7 0.35 料金ページを更新(15日)

事例では、9月に成果が7件へ増えていますが、訪問も2,000回に増えており、成果率は0.33%から0.35%とほとんど変わっていません。しかも料金ページの更新は15日なので、9月の数字に関わるのは半月分だけです。更新が効いたと言うには材料が足りず、10月以降も記録を続けて判断します。「出来事」の列があるおかげで、こうした読み方がその場でできます。

よくある誤りは、4つ目の記録を凝りすぎて続かなくなることです。最初は表計算ソフトに月ごとに3つの数字を書くだけで十分です。比較対象の作り方は「効果があった」と言う前に ― 比較対象の置き方で詳しく扱っています。

よくある質問

Q. 社員数人の会社でも、データマーケティングは必要ですか。
規模に関係なく、「記録を残し、それを根拠に次の手を決める」ことは役に立ちます。ただし、大きな会社と同じ仕組みは要りません。数人の会社なら、表計算ソフト1枚と、GA4の問い合わせ計測で十分に始められます。仕組みを大きくするのは、手作業で追えなくなってからです。

Q. 生成AIを使えば、分析はAIに任せられますか。
表の集計や、数字の変化を文章にまとめる作業は、生成AIでかなり楽になります。しかし、AIが扱えるのは記録された範囲のデータだけで、記録されていない電話の問い合わせや、先月サイトを直したという出来事は知りません。「集める」と「つなぐ」ができていなければ、AIの出す答えも欠けた材料に基づくものになります。AIに頼る前に、材料がそろっているかを確かめてください。

Q. 問い合わせした人のメールアドレスを営業の表に写すのは、問題になりませんか。
自社の業務のために、社内で管理する範囲であれば、多くの場合は通常の顧客管理の一部です。ただし、個人情報の利用目的をプライバシーポリシーでどう示しているかは会社ごとに違います。つなぐ前に、自社の方針と照らし合わせ、表を見られる人を必要な担当者に限ってください。

まとめ

データマーケティングは、集める・つなぐ・判断するの3つに分けられます。事例で語られるのは「判断する」ですが、時間がかかるのは手前の2つです。そして計測は過去に遡れないため、分析したくなってから始めると最初の数か月は材料がありません。今日から成果と流入元の記録を残すことが、最初の一歩です。

確認リスト

  • 自社にとっての「成果」を1つに決めた
  • その成果が計測できているか確認した
  • 電話・メールの問い合わせも数に入れている
  • 流入元が区別できる状態になっている
  • 誰がどの頻度で見るかを決めた
  • 毎月の記録を残す場所を決めた

記事に関することやお仕事のご相談は、下記よりお問い合わせください。

お問合せはこちら

記事一覧
datamake

施策の効果測定と実験設計が専門。 世に出ている成功事例の多くは、比較対象が置かれていないか、社会的背景と施策が分離されていないにもかかわらず、なぜか過去の多数の失敗事...

関連記事一覧