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実績から概算で出せば十分

LTVとは ― 中小企業での簡単な出し方

LTV(顧客生涯価値)は、1人の顧客が取引期間全体でもたらす利益の合計です。精密な計算式が紹介されがちですが、中小企業なら実績から概算で出せば十分です。桁が分かれば、広告費や既存顧客への投資の判断は変わります。この記事では、簡単な出し方と使い方を説明します。

LTVの計算は、1社分の実績を通して追うと手順がつかめます。この記事では、次の架空の会社の数字を、出し方から使い方まで共通の例として使います。

この記事で使う事例(仮の数字)

  • 法人向けに機器を販売・保守する会社(架空の会社・仮の数字)。粗利率は40%
  • 昨年の売上は6,000万円、取引は200件、取引のあった顧客は100社
  • 前年に取引があった100社のうち、67社が今年も取引を続けた
  • 1件の問い合わせに広告費3万円、問い合わせの2割が受注(1件の受注に15万円)

いちばん簡単な出し方

いちばん簡単な出し方は、「平均購入単価 × 年間の購入回数 × 平均継続年数」の3つを掛けることです。事例の会社は平均単価30万円、年2回、平均3年続く取引なので、30万 × 2 × 3 = 180万円になります。3つの数字は、手元の実績から次のように集めます。

  • 平均購入単価 … 昨年の売上 ÷ 取引件数
  • 年間の購入回数 … 取引件数 ÷ 取引顧客数
  • 平均継続年数 … 過去に取引が終わった顧客の、開始から終了までの年数の平均

事例の手元の数字から出してみます。昨年の売上が6,000万円、取引の件数が200件、取引のあった顧客が100社なので、平均単価は6,000万÷200で30万円、年間の購入回数は200÷100で2回です。ここまでは会計や販売の記録から、数分で出せます。

3つ目の継続年数は、記録が無くて出しにくいことが多い数字です。その場合は、年ごとの継続率から逆算するか、当面は営業担当の実感値を使って構いません。ここで求めているのは正確な値ではなく、「数十万円なのか、数百万円なのか」という桁だからです。

継続率から逆算する方法は、目安として次のように考えます。前年に取引があった顧客のうち、今年も取引があった割合(年間の継続率)を出し、「1 ÷(1 − 継続率)」で平均継続年数のおおよその値を出します。事例では前年の100社のうち67社が今年も取引を続けていたので、継続率67%で、1÷0.33で約3年です。毎年同じ割合で顧客が離れていくと仮定した概算なので、桁をつかむ目的に限って使ってください。

売上ではなく利益で出す

上の式は売上ベースです。しかし広告費をいくらまでかけられるかを考えるなら、利益ベースにする必要があります。広告費は売上からではなく、原価を引いた後の利益から出ていくからです。売上ベースのLTVを上限にすると、獲得するほど赤字になる危険があります。

利益ベースにするには、売上ベースのLTVに粗利率を掛けます。粗利率40%なら、先ほどの180万円は72万円です。この72万円が、1件の顧客を獲得するためにかけられる費用の理論上の上限です。実際には、人件費など他の費用も利益から出ていくため、これより十分に低く抑える必要があります。

上限の72万円まで使ってよいわけではない、という点は数字で確かめておきます。獲得にかける費用の目安は、例えば「利益ベースのLTVの3分の1まで」のように自社で決めます。この場合は24万円です。事例の会社は1件の受注に広告費15万円かかっているので、目安の内側に収まっています。

もう1つ見ておきたいのが、かけた費用を何か月で取り戻せるか。1社あたりの年間の粗利は、30万円×2回×40%で24万円、月あたり2万円です。獲得に15万円かけたなら、取り戻すまでに7.5か月かかります。LTVの上では見合っていても、回収までの期間が長いと、その間の資金が必要になります。

LTVを知ると何が変わるか

LTVが分かると、1回の取引だけを見ていたときとは違う判断ができるようになります。費用や顧客の価値を、取引期間全体で比べられるようになるからです。主に次の3つの判断が変わります。

変わる判断 中身
広告費 1件の問い合わせに3万円かかると高く感じる。しかし利益ベースのLTVが72万円で、問い合わせの2割が受注になるなら、1受注あたりの獲得費用は15万円で、十分に見合う(仮の数字)
既存顧客への投資 継続年数が3年から4年に延びれば、LTVは3分の4倍になる。新規獲得と同じくらい、継続への取り組みに価値があると数字で示せる
顧客層の優先順位 層ごとにLTVを出すと、単価が低くても長く続く層のほうが大きいことがある

事例の顧客を、2つの層に分けて出してみます。層Aは平均単価50万円・年1回・平均2年で、LTVは100万円です。層Bは平均単価10万円・年4回・平均5年で、LTVは200万円です。1回の取引の大きさで見ると層Aのほうが魅力的に見えますが、関係全体では層Bが2倍の価値を持っています。この差を知らないと、広告の対象や営業の優先順位を層Aに寄せ、長く続く顧客を取り逃がすことになります。

継続年数の効き方も計算で確かめます。先ほどの例で継続年数が3年から4年に延びると、売上ベースのLTVは180万円から240万円、粗利率40%の利益ベースでは72万円から96万円になります。新しい顧客を1社増やさなくても、既存の顧客が1年長く続くだけで、1社あたり24万円の粗利が上乗せされる計算です。継続のための連絡や点検の訪問にかけられる費用を考えるとき、この差額が目安になります。

よくある誤りは、1件目の取引の利益だけで広告費を判断し、「割に合わない」と獲得を止めてしまうことです。継続や追加購入が多い商材ほど、1回分で見る判断は厳しすぎます。

扱うときの注意

LTVは便利な数字ですが、過去の実績から出した平均であることを忘れると、判断を誤ります。特に次の3点に注意します。どれも、数字の出し方を記録しておけば後から修正できるものです。

  • 過去の実績であって、将来の約束ではない:市場や商材が変われば、同じ水準は続かない。年に1回は計算し直す
  • 平均は実態を隠す:少数の大口顧客がいると、平均LTVは実態より高く出る。中央値や分布も見る
  • 取引中の顧客の扱い:継続年数に現在も取引中の顧客を含めると短く出る。終了した顧客だけで計算すると、今後も続く分を見落とす。どちらで出したかを数字と一緒に記録する

平均が実態を隠す例。事例の顧客から10社を取り出したとき、9社のLTVが100万円、1社だけが1,000万円なら、平均は190万円ですが、真ん中の値(中央値)は100万円です。平均の190万円を基準に獲得費用を決めると、ほとんどの顧客では見合わない費用をかけることになります。大口の顧客がいる会社では、その顧客を除いた平均も並べて出しておくと安全です。

また、LTVは精度を上げるほど計算が複雑になり、更新されなくなります。担当者が代わっても毎年出し直せる程度の簡単さを保つほうが、実務では役に立ちます。

よくある質問

Q. 始めたばかりの事業で、継続年数の実績がありません。
実績が無い間は、似た商材の自社の実績か、営業担当の見込みで仮の年数を置きます。そのうえで、仮の値だと明記し、1年たったら実際の継続率で出し直してください。仮の値で広告費の上限を決めるときは、控えめな年数を使うほうが、外れたときの損が小さくなります。

Q. 月額で契約するサービスの場合は、どう出しますか。
「月額 × 平均継続月数」で出せます。平均継続月数は、月ごとの解約率の逆数(1 ÷ 月の解約率)がおおよその目安になります。仮に月額2万円で、毎月3%が解約するなら、平均継続月数は約33か月で、売上ベースのLTVは約67万円です。

Q. LTVを上げるには、何から手を付ければよいですか。
3つの数字のうち、どれがいちばん動かしやすいかを考えます。単価を上げるのは難しくても、購入回数や継続年数は、既存顧客への定期的な連絡や、更新の時期の案内で動くことがあります。どれに手を付けるにしても、手を付ける前の3つの数字を記録しておき、1年後に同じ方法で出し直して比べてください。

まとめ

LTVは「平均単価 × 年間購入回数 × 平均継続年数」で概算できます。広告費の判断に使うなら、粗利率を掛けて利益ベースにします。桁が分かれば、広告費や既存顧客への投資の判断は変わります。精密さより毎年更新できる簡単さを優先し、関係全体で費用と価値を比べてください。

確認リスト

  • 平均単価・購入回数・継続年数の3つを出した
  • 粗利率を掛けて利益ベースにした
  • 平均だけでなく分布も確認した
  • 継続年数の計算方法を記録に残した
  • 年に1回は出し直すことにした

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施策の効果測定と実験設計が専門。 世に出ている成功事例の多くは、比較対象が置かれていないか、社会的背景と施策が分離されていないにもかかわらず、なぜか過去の多数の失敗事...

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