見栄えのいい指標にだまされない
報告すると場が明るくなる数字があります。訪問数、フォロワー数、ページビュー。これらが悪いわけではありません。問題は、事業判断に使えないのに、目標に置かれてしまうことです。この記事では、そうした指標の見分け方と直し方を説明します。
この記事でわかること
見栄えのいい指標がどう判断を狂わせるかは、実際の報告の数字に当てはめると分かります。この記事では、次の架空の会社の数字を例として使い続けます。
この記事で使う事例(仮の数字)
- 架空の会社のサイト(仮の数字)。目標は「月間訪問数10,000」だった
- 訪問は前年の月5,000から、今月は10,800に増えた。増えた分の多くは用語解説や求人向けの記事から
- 問い合わせは月18件で前年とほぼ同じ。商談化率は33%、サービスページに来た人は1,200人
- メールマガジンは1,000通の配信で、開封が250通→350通に増えたが、クリックは20回のまま
見分ける3つの問い
目標にしてよい指標かどうかは、次の3つの問いで見分けます。目標は「動いたら事業が良くなり、動かなければ手を打つ」ためのものなので、そのどちらにも使えない指標は目標になりません。1つでも「いいえ」なら、目標には向きません。
- この数字が2倍になったら、売上も増えると説明できるか
- この数字が下がったとき、やることが決まっているか
- 自分たちの行動で動かせるか
最も効くのは1つ目です。「訪問数が2倍になったら売上も増えますか」と聞かれて即答できないなら、それは目標ではなく観測値です。事例の会社でも、訪問は月5,000から10,800に増えましたが、増えた分の多くは用語解説や求人向けの記事への流入で、問い合わせは月18件のまま変わっていません。
3つの問いを、よく使う指標に当ててみます。総訪問数は、1つ目の問いに即答できず、下がったときの行動も決まっていないことが多いので、目標には向きません。サービスページに来た人の数は、増えれば問い合わせの候補が増えると説明でき、下がったら記事からの案内を見直すという行動も決められます。問い合わせ件数は3つとも「はい」になりやすく、目標の中心に置けます。
当てはまらない場合もあります。事業を始めたばかりで、問い合わせがまだ月0〜1件しかない時期は、成果の件数だけを目標にしても変化が読めません。この時期に限っては、サービスページに来た人の数のような「成果の手前の数字」を仮の目標にして構いません。その場合も、「問い合わせが月5件を超えたら目標を切り替える」のように、いつまで仮の目標を使うかを決めておいてください。
よくある例と置き換え
見栄えのいい指標は、捨てるのではなく、事業に近い指標に置き換えます。置き換えの方向は共通していて、「成果に一歩近い数字」か「質を表す数字とのセット」にすることです。よくある例は次のとおりです。
| 見栄えのいい指標 | 置き換える指標 |
|---|---|
| 総訪問数 | サービスページ到達数、成果件数 |
| フォロワー数 | SNSからサイトに来た人数、その成果率 |
| 記事の公開本数 | 成果につながった記事の本数 |
| メールの開封率 | クリック数、そこからの成果数 |
| 問い合わせ件数のみ | 件数と商談化率のセット |
メールの開封率は、置き換えが特に必要な例。事例の会社のメールマガジンは、1,000通の配信で開封が250通から350通に増え、開封率が25%から35%に上がりました。ところがリンクのクリックは2回とも20回で、そこからの問い合わせも変わっていないので、事業にとっての変化はありません。さらに、メールソフトの仕様によっては、読んでいなくても開封として数えられる場合があり、開封率そのものが実態より高く出ることがあります。
SNSも同じ考え方で置き換えます。フォロワーが増えても、投稿のリンクからサイトに来る人が増えていなければ、事業への効き目は確かめられません。投稿のリンクにUTMを付け、SNSから来た人数と、その人たちの成果を毎月並べてください。
置き換えるときの誤りも2つあります。1つは率だけを目標にすることで、率は分母を減らしても上がるため、成果率を目標にすると訪問を減らしても達成できてしまいます。もう1つは「累計ダウンロード数」のような累計値で、減ることがないので必ず右肩上がりに見えますが、今月の状況は分かりません。
なぜ生まれるのか
見栄えのいい指標が選ばれるのには、理由があります。担当者の能力の問題ではなく、どの組織でも自然に起きる流れです。理由が分かると、直すときの抵抗にも対処しやすくなります。
- 測りやすい:訪問数は簡単に取れるが、商談化率には営業側との連携が必要。手に入りやすい数字が選ばれる
- 大きく見える:事例でいえば、「月10,800訪問」は「月18件の問い合わせ」より立派に見える。報告する側は自然に大きい数字を選ぶ
- 否定されにくい:訪問数が増えたことは事実。「それで売上は」と問われなければ、成果として通ってしまう
報告を受ける側が使える問いを3つ用意しておくと、場の空気を悪くせずに確かめられます。「この数字が増えたことで、問い合わせや商談はどう変わりましたか」「先月と比べて何が違ったからこの数字になったと考えていますか」「この数字が来月下がったら、何をしますか」。3つとも責める問いではなく、指標と事業のつながりを一緒に確かめる問いです。
生成AIで報告書を作るようになると、この流れはさらに強まるかもしれません。AIに「成果をまとめて」と頼めば、増えた数字を見つけて前向きな文章にしてくれますが、その数字が事業につながるかまでは判断しません。報告書の作り方が変わっても、受ける側が問う習慣は変えないでください。
3つとも、報告する側にとって楽で安全な選択です。だからこそ、報告を受ける側が「それで売上は」と問う習慣を持つことが、仕組みとして必要になります。
直し方
直すときは、いきなり指標を削らず、段階を踏みます。長く使ってきた指標を消すと、報告の連続性がなくなり、関係者の抵抗も大きくなるからです。次の4つの手順で進めます。
- つながりを書き出す … いま見ている指標が、どう売上につながるかを図にする。つながらない指標が見つかる(階層の作り方はBtoBサイトのKPI設計)
- 補助指標に格下げする … 「目標」から「参考値」に移す。見るのは構わないが、達成の判断には使わない
- セットで置く … 件数と質、量と率。片方だけを目標にすると、もう片方を犠牲にして達成できてしまう(KPIとKGIの違い ― 毎週見る数字はどちらか)
- 達成時の行動を決める … 「この数字が目標を超えたら、次に何をするか」を書く。書けない指標は目標にする意味がない
事例の会社の報告は、格下げの前後で次のように変わります。
- 直す前:目標「月間訪問数10,000」、実績「10,800(達成)」
- 直した後:目標「問い合わせ20件・商談化率30%」、実績「18件・33%」、参考値「訪問数10,800、サービスページ到達1,200」
直した後の報告は、訪問数の目標を「達成」と書けなくなる代わりに、問い合わせが2件足りないことと、商談化率は保てていることが同時に分かります。会議の議論は「訪問数が増えてよかった」から「あと2件をどこで増やすか」に移ります。
特に2つ目の格下げは、抵抗が少なく効果の大きい手です。訪問数を報告から消すのではなく、報告書の目標欄から参考欄に移すだけで、会議の議論が成果の件数に向きます。
よくある質問
Q. 社長が訪問数の増加を喜んでいます。どう伝えればよいですか。
訪問数を否定せず、隣に成果の数字を並べることから始めてください。「訪問は前年の2倍を超えました。問い合わせは横ばいで、増えた訪問の多くは用語解説の記事からでした」のように、事実を並べれば、どの数字を重く見るべきかは伝わります。訪問数は参考値として残し、目標の欄に成果の数字を置く提案を、その後で出します。
Q. 参考値に下げた指標は、見なくてよいのですか。
見る必要はあります。訪問数が急に半分になれば、計測が壊れたか、検索での表示が落ちた可能性があり、成果が減る前の警告になります。参考値は「目標の達成・未達を決める数字」ではなく、「異常に気づくための数字」として見てください。
まとめ
見栄えのいい指標を見分けるには、「2倍になったら売上も増えるか」を問います。即答できないなら、目標ではなく参考値です。率だけ、件数だけを目標にすると、もう片方を犠牲にして達成できてしまいます。目標は、成果に近い件数と質の率をセットで置いてください。
確認リスト
- 各指標が売上につながる説明ができる
- 下がったときの行動が決まっている
- 率と件数をセットで見ている
- 累計値を目標にしていない
- つながらない指標は参考値に格下げした
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