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データドリブンの始め方 ― 小さく始めて、続ける

「データドリブン」という言葉には、大がかりな準備が必要そうな響きがあります。専任の担当者、分析基盤、統合されたデータ。そう考えると、中小企業では手が出ません。

実際には、1つの判断をデータで確かめるところから始められます。この記事では、最初の1か月で何をするか、1か月後にどう振り返るか、そして続けるために何が要るかを、仮の数字を使って整理します。

始め方の手順は、1つの会社が実際に1か月を回す様子で追うと具体的になります。記録の書き方から振り返りまで、次の事例を通して使います。

この記事で使う事例(仮の数字)

  • 社員20人ほどの会社のサイト(架空の会社)。サービスページがAとBの2つある
  • 9月22日に、ページAの問い合わせボタンを最下部から見出しの直下に移した。ページBには手を加えない
  • 9月25日に、広告の予算を1割増やした
  • 変更前の4週間の問い合わせは、ページAが6件、ページBが5件

データドリブンとは、何をすることか

データドリブンは「すべてをデータで決めること」ではありません。決めたことの結果を、後から確かめられる形にしておくことです。判断の前に数字を見ることより、判断の後に結果を確かめることのほうが、最初は大切になります。

勘や経験で決めても構いません。問題は、その判断が当たったのか外れたのかが分からないまま、次の判断に進んでしまうことです。確かめる仕組みがあれば、経験は積み上がります。反対に、確かめないまま10回判断しても、どれが当たりだったかは分からず、11回目の判断の精度は上がりません。

勘で決めた判断を、確かめられる形に直す例を挙げます。「料金ページに事例を載せれば、問い合わせが増えるはずだ」という経験からの判断があったとします。これを「料金ページに事例を2件載せる。10月の料金ページからの問い合わせを、9月と前年10月の両方と比べる。3件以上増えていれば続ける」と書き直せば、同じ判断が、1か月後に確かめられる判断に変わります。変えたのは判断の中身ではなく、書き方だけです。

最初の一歩は小さくてよく、「今月の打ち手を1つ選び、その結果を来月確かめる」ができていれば十分です。規模が小さくても、これはデータドリブンな進め方になっています。専任の担当者も、新しいツールも、最初は要りません。

最初の1か月でやること

1か月を4週に分け、週ごとに1つずつ進めます。1週に使う時間は1〜2時間ほどで足ります。大事なのは、4週目までに「変更した日と内容の記録」が残っている状態を作ることです。

週1:確かめたい判断を決める

事例の会社なら、「サービスページの問い合わせボタンを上に移したら、問い合わせが増えるか」。対象と期待する変化を、1行で書ける粒度にします。「サイトを改善する」のような大きな判断は、何を見れば確かめられるかが決まらないので避けてください。候補がいくつもあるときは、今月の打ち手の中で、結果が出るまでの期間が短いものを1つだけ選びます。

週2:確かめる数字を決める

次に、その判断を確かめる数字を決めます。問い合わせの送信数なのか、ボタンのクリック数なのか。迷ったら売上に近いほうを選びます。クリックが増えても問い合わせが増えなければ、意味は薄いためです。ただし事例のように問い合わせが月に数件しかないなら、クリック数を補助の数字として一緒に見ておくと、変化の方向はつかみやすくなります。

週3:計測を用意し、比べる相手を決める

数字が記録される状態にします。問い合わせの完了がGA4のキーイベントとして数えられているかを、実際にテスト送信して確かめてください(GA4の「キーイベント」設定 ― 問い合わせ完了を成果として数える)。送信した直後に、GA4のリアルタイムの画面に出るかを見れば足ります。

同時に、何と比べるかも決めます。手を加えていない似たページ、前年の同じ時期、変更していない流入元などです。比べる相手を決めずに始めると、結果が出たあとで都合のよい比較を選んでしまいます(「効果があった」と言う前に ― 比較対象の置き方)。事例の会社は、手を加えていないページBを比べる相手にしました。

週4:実施して、結果を記録する

変更した日、変更した内容、同じ時期に行った他のことを書き残します。これを残していないと、翌月に振り返れません。記録は、表計算の1行で十分です。事例の会社の記録は、次の5行でした。

  • 日付:9月22日
  • 変更:ページAの問い合わせボタンを、ページの最下部から見出しの直下に移動
  • 比べる相手:手を加えていないページB、変更前の4週間
  • 同じ時期の他の出来事:9月25日に広告の予算を1割増
  • 見直す日:10月20日

最初の1か月でよくある誤りは、4週目に結果を見ようとすることです。4週目は変更を記録して実施する週で、結果を見るのは翌月の見直しの日です。変更の直後に数字を見ると、数日分の偶然の上下に反応してしまいます。見直しの日までは、数字を見ても判断はしない、と決めておいてください。

1か月後の振り返り方

見直しの日が来たら、事前に決めた数字と比べる相手だけを見ます。ほかの数字を見始めると、良かったものを探す作業になりやすいからです。事例の会社の10月20日の振り返りは、次のとおりです。

事例(仮の数字・各4週間) 変更前 変更後
変更したページAからの問い合わせ6件9件
手を加えていないページBからの問い合わせ5件6件

ページAは6件から9件へ3件増え、ページBは5件から6件へ1件増えました。広告を増やした影響は両方に同じように入ると考えれば、差し引いた2件ほどが、ボタンの移動によるものかもしれない、という読み方になります。件数が少ないので、結論は「良さそうだが、もう1か月見る」。

結果が悪いこともあります。仮に、ページAが6件から4件に減り、ページBは5件のまま横ばいだったとします。件数が少ないので断定はできませんが、「悪くなった可能性がある」と書き、元に戻すか、もう1か月見るかを選びます。悪い結果を記録しておくことは、良い結果と同じくらい価値があります。同じ変更を、半年後に別の担当者がもう一度試すことを防げるからです。

振り返りの結果は、「続ける」「戻す」「もう1か月見る」の3つのどれかで書きます。どれを選んでも失敗ではありません。「もう1か月見る」を選んだときは、次に見る日と、何件になったら判断するかも書き足してください(件数が少ないときに、率だけで判断しない)。見直しの日には記録の5行を開き、その横に結論を1行書けば、振り返りは終わりです。

続けるための仕組み

始めるより、続けるほうが難しい取り組みです。最初の1か月は意欲で回っても、2か月目、3か月目には日々の業務に押されます。次の3つを決めておくと止まりにくくなります。

決めること 目安
見る日 毎週月曜の朝など、曜日と時間まで決める
見る人 担当者1人と、判断する人1人
見る画面 1枚のレポート。指標は5つまで

指標を5つまでに絞るのは、増やすほど都合のよい数字を選びやすくなるからです。数字が悪かった月も同じ画面を見ることが、続ける条件になります(Looker Studioでレポートを1枚にまとめる)。

もう1つの仕組みは、確かめた結果を貯める表です。「何を試し、何と比べ、どうなったか」を1行ずつ足していく表があれば、半年後には10件近い判断の記録が並びます。うまくいかなかった試みも同じ表に残すと、同じ失敗を繰り返さずに済みます(意思決定を記録する)。

貯める表の列は、次の6つで足ります。事例の会社の1行目を例として入れています。

日付 試したこと 比べる相手 結果 結論 次にやること
9月22日ページAの問い合わせボタンを上に移動手を加えていないページB+3件(B:+1件)もう1か月見る11月17日に再判定

1行が短くても、半年分並ぶと「どの種類の変更が効きやすいか」の傾向が見えてきます。表は、担当者の個人のファイルではなく、共有の場所に置いてください。見る日を予定表に入れるのと同じ日に、この表も作っておくと始めやすくなります。

よくある失敗

始めたのに止まってしまう例には、共通した形があります。どれも、やる気の問題ではなく、進め方の選び方で起きる失敗です。代表的な3つを挙げます。

立派な基盤から作ろうとする

データを統合する仕組みから始めると、動き出すまでに数か月かかります。その間、判断は変わりません。まず1つの判断を確かめ、必要になった順に整えるほうが早く進みます。仕組みが要るかどうかは、確かめる作業を何度か回して「毎回ここで手間がかかる」と分かってから決めても遅くありません。

数字を「評価」に使ってしまう

担当者の評価に直結させると、数字をよく見せる動きが生まれます。都合の悪い結果が報告されなくなると、判断の材料としては使えなくなります。振り返りの場では「誰の成果か」ではなく「次に何を変えるか」を話すと決め、うまくいかなかった試みを報告した人を責めないことを、最初に確認しておいてください。

成功事例をそのまま真似る

他社の事例は、その会社の条件のもとでの結果。比べる相手が書かれていない事例は特に、同じことをして同じ結果になるとはかぎりません。自社で小さく試し、自社の数字で確かめてください。事例は「試す候補の一覧」として使い、採用するかどうかは自社の結果で決めます。

まとめ

データドリブンは、体制の話ではなく「確かめる習慣」の話です。1つの判断、1つの数字、1つの比べる相手。この3つがそろえば、今月から始められます。始めるのに必要なのは準備ではなく、最初の1つを選ぶことです。今週中に確かめたい判断を1行で書き、見直す日を予定表に入れてください。

確認リスト

  • 今月の打ち手が1つ、言葉で書かれている
  • それを確かめる数字が決まっている
  • 比べる相手が決まっている
  • 変更した日と内容が記録されている
  • 見る日・見る人・見る画面が決まっている

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施策の効果測定と実験設計が専門。 世に出ている成功事例の多くは、比較対象が置かれていないか、社会的背景と施策が分離されていないにもかかわらず、なぜか過去の多数の失敗事...

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