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昨年比120%に根拠はあるか

目標数値の決め方 ― 根拠のある数字にする

「来期は昨年比120%」。この数字はどこから来たのでしょうか。根拠のない目標は、達成できなくても原因が分かりません。2つの方法で出して、突き合わせると根拠が持てます。この記事では、その出し方と、差が出たときの扱いを仮の数字で説明します。

数字は、次の1つの会社の例で通します。出し方から見直しまで同じ前提を使い続けるので、計算を追いかけながら読めます。

この記事で使う事例(仮の数字)

  • 法人向けサービスの会社(架空の会社・仮の数字)。来期に必要な売上は6,000万円、平均受注額は300万円
  • 前年の実績は、問い合わせ月10件、商談化率20%、受注率25%(前年4月〜翌3月)
  • 来期の施策の予定は、記事を月3本増やすことと、広告費を1.5倍にすること

2つの出し方

目標の出し方には、「できることから積み上げる」方法と「必要な数から逆算する」方法があります。前者は現場の実力を、後者は事業の要求を表します。どちらか片方だけでは、実力と要求のずれに気づけません。両方を出して並べるのが基本です。

積み上げ(できることから)

積み上げは、現状の実績に、予定している施策の効果を足していく方法です。手順は、現状の月間成果数を出し、施策ごとの効果の見積もりを並べ、足し合わせるだけです。事例でいえば、現状が月10件、記事を月3本増やして+2件、広告を1.5倍にして+3件なら、合計で月15件になります。施策ごとの見積もりは、過去に似たことをしたときの実績から置きます。

見積もりの根拠は、自社の過去の記録。例えば記事の効果なら、過去1年に公開した記事が、公開から半年後に1本あたり月何件の問い合わせを生んでいるかを出します。仮に12本で合計月4件なら、1本あたり約0.3件です。月3本を1年続けても、公開直後の記事はまだ成果が小さいので、年間の平均で見ると「+2件」は多めの見積もりかもしれません。

そこで、見積もりは1つの数字ではなく幅で置きます。記事なら「+1〜2件」、広告なら「+2〜3件」のように、低い場合と高い場合を並べ、合計も「月13〜15件」と幅で出します。幅があれば、期中の実績がその幅の下のほうにいるのか上のほうにいるのかで、見積もりのどこが甘かったかを振り返れます。

逆算(必要な数から)

逆算は、事業計画から必要な数を割り出す方法です。必要な売上を平均受注額で割って受注件数を出し、受注率で割って商談数を、商談化率で割って問い合わせ数を出します。事例では、年間6,000万円が必要で、平均受注額が300万円なので20件です。受注率25%なら商談80件、商談化率20%なら問い合わせ400件、月あたり約33件になります。

よくある誤りは、逆算に使う率を希望で置くことです。受注率を実績の25%ではなく「頑張って35%」にすると、必要な数が小さく見え、目標が現実から離れます。

もう1つの注意は、月あたりの数を12か月で均等に割らないこと。問い合わせが多い月と少ない月がある業種では、月33件を毎月の目標にすると、閑散期は必ず未達、繁忙期は楽に達成、という読みにくい結果になります。前年の月ごとの問い合わせが年間の何%を占めていたかを出し、年間の400件をその割合で配ると、月ごとの目標が実態に近づきます。仮に前年の4月が年間の5%なら、4月の目標は20件、年間の12%を占める10月なら48件です。

差が出たときの扱い

事例では、積み上げで月13〜15件、逆算で月33件です。この差をどうするかが、計画の本質です。まず、差があること自体を関係者の前で明確にしてください。逆算の数字だけを目標にして、積み上げで届かないことを隠すと、期中に破綻します。差を埋める選択肢は3つです。

選択肢 中身と注意点
施策を増やす 差を埋める分の予算・人員を確保する。確保できないなら選べない
率を改善する 商談化率や受注率を上げれば、必要な問い合わせ数は減る。見落とされがち
目標を下げる 届かないと分かっている数字を掲げない

2つ目を事例で確かめます。商談化率を20%から30%に上げられれば、商談80件に必要な問い合わせは約267件、月約22件です。問い合わせを倍にするより、こちらのほうが現実的な場合があります。経営判断として差を残したまま進めるなら、差が埋まらなかったときに何をするかを先に決めておきます。

組み合わせた場合も、事例で計算しておきます。問い合わせを積み上げで届く範囲より少し高い月20件(年240件)にし、商談化率を20%から25%へ上げる施策を組むとします。商談は240×25%で60件、受注率25%のままなら受注は15件で、売上は300万円×15件で4,500万円です。必要な6,000万円には1,500万円届きません。この1,500万円を「残した差」として関係者に示し、平均受注額を上げる、既存顧客からの追加受注を見込むなど、別の手で埋めるかを話し合います。

目標に添えるもの

目標は数字だけを掲げず、計算の前提と一緒に記録します。前提を残しておくと、未達のときにどこがずれたかを特定できるからです。前提が無ければ、未達の理由は「頑張りが足りなかった」以外に言いようがありません。添えるのは次の3つです。

  • 計算の前提 … 使った率と、その出典(いつの実績か)
  • 前提が崩れる条件 … 受注率が下がったら、必要な問い合わせ数は増える
  • 中間の確認時点 … 四半期ごとに、前提が合っているか確認する

事例の会社の記録は、次のような短いもので足ります。

  • 年間目標:問い合わせ240件、商談60件、受注15件
  • 使った率:商談化率25%(改善後の見込み。前年実績は20%)、受注率25%(前年4月〜翌3月の実績)
  • 崩れる条件:受注率が20%を下回る、主力商品の価格改定、営業担当の退職
  • 確認時点:7月・10月・1月の第1週に、率の実績を前提と比べる

「崩れる条件」には、数字だけでなく社内外の出来事も書いておきます。担当者が代わった、競合が値下げした、といった出来事は、率を通じて目標に影響します。出来事を書いておけば、四半期の確認のときに、率が動いた理由の候補をすぐに挙げられます。

事例の会社で、第1四半期に問い合わせは計画どおりでも、受注率が25%から18%に下がっていたとします。前提を記録していれば、問題は集客ではなく受注の段階にあると分かり、手を打つ場所を間違えずに済みます。この確認の積み重ねが、次の計画の精度を上げます。

避けるべき決め方

目標の決め方には、よく使われるのに根拠にならないものがあります。どれも手軽ですが、達成の方法か自社の実態のどちらかが抜けています。次の表にあてはまる決め方をしていないか確かめてください。

決め方 なぜ避けるか
前年比だけで決める 達成方法が含まれていない。何をすれば20%増えるかが無ければ、目標ではなく願望
業界平均を使う 他社とは商材も成果の定義も違う。詳しくはCVR(コンバージョン率)とは ― 計算方法と見るときの注意
達成しやすい数字にする 確実に届く数字では改善が止まる。逆に届かないと分かっている数字はやる気を削ぐ
件数の少ない指標で率を目標にする 月数件の成果で「成果率3%」を掲げると、偶然で達成・未達が決まる。詳しくは件数が少ないときに、率だけで判断しない

当てはまらない場合もあります。新しい事業やサービスを始めたばかりで、率の実績が無いときは、積み上げも逆算も仮の率に頼るしかありません。この場合は、仮の率を置いたことを明記し、最初の3か月を「率を測る期間」と位置づけます。3か月後に実績の率で計算し直し、目標を改めて決めるところまでを、最初から計画に入れておいてください。

もう1つ、目標の数を1つに絞りすぎる誤りもあります。問い合わせ件数だけを目標にすると、件数を増やしやすい、商談につながりにくい問い合わせを集める方向に動きがちです。件数の目標には、商談化率や受注率のような「質」を表す数字を1つ添え、両方を同じ表で見るようにしてください。

落としどころの目安は、積み上げと逆算の間です。積み上げより少し高く、そのぶんを埋める施策や率の改善が説明できる数字にします。事例なら、積み上げの月13〜15件と逆算の月33件の間で、商談化率の改善を組み込んだ月20件がその一例です。前年比や業界平均で決めるより、関係者に埋め方を説明しやすくなります。

よくある質問

Q. 期の途中で目標を変えてもよいですか。
前提が崩れたことが確認できたなら、変えて構いません。ただし、変える前の目標と、変えた理由、変えた日を記録に残してください。記録が無いと、期末に「達成した」と言っても、どの目標に対してかが分からなくなります。未達が見えてきたから下げる、という変え方は、前提の確認とは別物なので避けます。

Q. 社長から「とにかく前年比120%」と言われています。どうすればよいですか。
120%をそのまま否定する必要はありません。積み上げで出した数字と並べ、「120%に届くには、この施策とこの率の改善が要る」と差を埋める方法を添えて示してください。埋める方法が予算や人員の面で無理なら、その事実を数字で伝えることが、担当者にできるいちばん確かな説明です。

Q. 中間の確認で、前提の率が大きく外れていたらどうしますか。
まず、率が外れたのが偶然の範囲かを確かめます。四半期で商談が十数件なら、受注率が数ポイント動くのは珍しくありません。2四半期続けて同じ方向に外れているなら前提を直し、必要な問い合わせ数を計算し直してください。

まとめ

目標は積み上げと逆算の2つで出し、その差を明確にします。差を埋める方法は施策を増やすだけではなく、率を改善するほうが現実的な場合もあります。計算の前提を記録しておけば、未達のときにどこがずれたかを特定できます。数字の大きさより、その数字を説明できるかを目標の条件にしてください。

確認リスト

  • 積み上げで目標を出した
  • 逆算でも目標を出した
  • 2つの差を明確にした
  • 逆算に使った率が過去の実績に基づいている
  • 計算の前提と見直す時期を記録に残した

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datamake

施策の効果測定と実験設計が専門。 世に出ている成功事例の多くは、比較対象が置かれていないか、社会的背景と施策が分離されていないにもかかわらず、なぜか過去の多数の失敗事...

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