BtoBのファネル設計 ― どこで数えるかを決める
認知・興味・比較検討・購入。ファネルの図はどこでも見かけますが、この4段階をそのまま自社に当てはめても、数字は埋まりません。段階は「記録が残る場所」から逆算して決めるものです。この記事では、自社の商流から段階を作り、数えて読むまでの手順を説明します。
この記事でわかること
段階の作り方と読み方は、1つの会社の案件で追うと具体的になります。以下の説明では、次の架空の会社の数字を全体で使います。
この記事で使う事例(仮の数字)
- 業務システムの開発会社(架空の会社・仮の数字)。受注は月3件ほど
- 直近の受注10件のうち、8件はサイトからの問い合わせ、2件は取引先からの紹介で始まった
- 4月に来たリードは50件(検索経由20件・展示会経由30件)
- 4月のリードは、7月末までに商談12件(検索経由8件・展示会経由4件)、受注3件になった
教科書のファネルが使えない理由
一般的なファネルの図は、顧客の気持ちの移り変わりを表したものです。気持ちは記録に残らないため、図の段階ごとに数を数えることができません。実務で機能しない理由は、次の3点に整理できます。
- 「興味」を計測できない … 誰かが興味を持ったことは、行動に出るまで分からない
- BtoBは1人で決まらない … 調べる人と決める人が別。個人単位で追うとつながらない
- 順番どおりに進まない … 比較検討してから認知の記事に戻る、ということが普通に起きる
よくある誤りは、この図をそのまま報告書に載せ、「興味」の欄をページビューなど別の数字で無理に埋めることです。埋めた数字が段階の意味と合っていないため、段階の間の率を計算しても何も言えません。
2つ目の「1人で決まらない」は、数える単位の問題でもあります。仮に同じ会社の3人がそれぞれ資料をダウンロードしたとき、人の数で数えればリードは3件、会社の数で数えれば1件です。人で数えると、1社の熱心な検討がリードの増加に見え、商談化率は実態より低く出ます。BtoBでは、少なくとも商談から先は会社の単位で数え、リードの段階でも「何社から来たか」を並べて見ると、段階の間の率が読みやすくなります。
当てはまらない場合もあります。1人の判断で、1回の訪問で購入が決まる商材なら、教科書の図に近い区切りでも数えられます。例えば少額の消耗品を法人に売るネットショップなら、「訪問 → 商品ページ → カート → 購入」という行動の記録がそのまま段階になります。検討期間が長く、複数の人が関わる商材ほど、ここで説明する作り方が必要になります。
段階の決め方
段階は、教科書ではなく自社の過去の受注から作ります。実際に受注した案件がたどった道のりこそが、自社の商流だからです。次の3つの手順で決めます。
- 受注から逆にたどる … 直近で受注した案件を10件ほど選び、受注 → 商談 → 最初の接点の順に遡って、途中で必ず通る行動を書き出す
- 記録が残る行動だけを残す … 「関心を持った」は残せないが、「資料をダウンロードした」は残せる。システムに記録が残るものだけを候補にする
- 4〜5段階に収める … 段階が多いほど詳しくなるが、各段階の件数が減って判断できなくなる
事例の会社で、受注から遡ってみます。直近の受注10件のうち8件は「サイトを訪問 → 問い合わせてリードになる → 営業が商談として追う → 受注」と進み、2件は取引先からの紹介で商談から始まっていました。すべての案件が通っているのは「商談」と「受注」で、紹介以外は「訪問」と「リード」も通っています。この場合の段階は「訪問」「リード」「商談」「受注」の4つにし、紹介の案件はリードを飛ばして商談から数えます。
「料金ページを見た」「事例を読んだ」といった行動も、多くの案件が通っていたかもしれません。しかし誰が見たかは問い合わせるまで分からないため、段階にはせず、問い合わせた人が事前に何を見ていたかを後から調べる材料にとどめます。段階に入れるのは、案件ごとに「通ったか・通っていないか」を1件ずつ言える行動だけです。
段階の数は、件数から決めます。事例の会社のように月の受注が3件ほどなら、6段階に分けると後ろの段階は毎月数件になり、率が偶然で大きく動きます。月の受注が数件なら、4段階でも多いくらいだと考えてください。
各段階で数える対象
段階を決めたら、それぞれで何を数え、記録がどこにあるかを決めます。記録の場所が段階ごとに違うため、ここを決めないと毎月の集計が止まります。典型的な形は次のとおりです。自社の商流に合わせて読み替えてください。
| 段階 | 数える行動 | 記録の場所 |
|---|---|---|
| 訪問 | サイトに来た | アクセス解析 |
| リード | 連絡先が分かった(資料請求・問い合わせ・名刺) | フォーム・CRM |
| 商談 | 営業が追うと決めた | SFA・営業の台帳 |
| 受注 | 契約した | SFA・基幹システム |
集計を毎月回すには、段階ごとに「誰が、いつ、どこから数字を取るか」まで決めておきます。例えば、リード数はマーケ担当が毎月第1営業日にフォームとCRMから取り、商談数と受注数は営業担当が同じ日に営業の台帳から取る、という形です。数字を取る人と日を決めないと、月によって集計の締め方が変わり、前月との比較が崩れます。
よくある誤りは、GA4の成果数とCRMのリード数がずれているのを放置することです。ずれの原因は、電話やメールの問い合わせがGA4に入っていない、同じ人が2回送信している、社内のテスト送信が混ざっている、のどれかであることが多いです。ずれ自体は無くせなくても、毎月の差と理由を1行記録しておけば、どちらの数字をどの目的で使うかを説明できます。
特に揉めやすいのが、リードと商談の区切りです。この線は「誰が判断するか」で決まり、マーケ側の感覚で引くと営業の台帳と数が合いません。線引きはBtoBのリード定義 ― MQLとSQLを分けるで詳しく扱っています。
ファネルの読み方
数字がそろったら、各段階の転換率を並べ、最も落ちている段階を1つ選んで手を打ちます。すべてを同時に改善しようとすると、何が効いたか分からなくなるからです。ただし読むときには、BtoB特有の2つの落とし穴があります。
- 時間のずれ:検討期間が長いため、今月のリードが今月の受注になるとは限らない。同じ月のリード数と受注数を割り算すると、意味のない数字が出る。本来は同じ案件を最初の接点までたどって数える
- 獲得元の混在:全体のファネルは平均であり、獲得元ごとの違いを隠す。検索から来たリードと展示会で交換した名刺では、商談化率が大きく違うのが普通
事例の4月のリードでいえば、全体の商談化率は24%(50件中12件)でも、検索経由は40%(20件中8件)、展示会経由は約13%(30件中4件)です。打つ手は「全体の商談化率を上げる」ではなく「展示会の名刺の扱いを見直す」になります。
時間のずれを避ける数え方の例。事例の4月に来たリード50件を1つのまとまりとして、そのうち何件が3か月後の7月末までに商談になり、何件が受注したかを数えます。商談12件・受注3件なので、「4月のリードは3か月で商談化率24%、受注率6%」と言えます。5月のリードも同じく3か月後の8月末で数えれば、4月と5月を同じ条件で比べられます。
最も落ちている段階を選ぶときは、率だけでなく件数の差も並べます。リードから商談で50件が12件に、商談から受注で12件が3件になるなら、率はそれぞれ24%と25%でほぼ同じです。この場合、減る人数の多いリードから商談の段階に手を打つほうが、受注の増える余地は大きくなります。ただし、手を打つ前に、その段階の件数が数か月分たまっているかを確かめてください。
よくある質問
Q. 展示会や紹介など、サイト以外から始まる案件はファネルにどう入れますか。
入口が違うだけで、後ろの段階は同じものとして数えます。展示会の名刺はリードの段階に、紹介の案件は商談の段階に入れ、それぞれに「獲得元」を付けておきます。獲得元ごとに分けて見れば、入口の違いによる率の差が分かります。記録の付け方はリードの獲得元を記録するで説明しています。
Q. 失注した案件が、半年後にまた問い合わせてきました。どう数えますか。
新しい案件として、もう一度リードから数えるのが分かりやすい方法です。ただし、前回の案件とつながっていることが分かるように、同じ会社の過去の案件番号を書き添えてください。再来の案件が多いなら、それ自体が「一度失注しても関係を保つ価値がある」ことを示す材料になります。
Q. 段階は一度決めたら変えないほうがよいですか。
商流が変わったら変えて構いません。例えば、オンラインでの無料相談を始めたなら、それを新しい段階として加える必要があるかもしれません。変えるときは変えた日を記録し、変える前の期間とは別の表で見るか、両方に共通する段階だけで比べてください。
まとめ
ファネルは顧客心理の図ではなく、社内で数を数えるための区切りです。段階は教科書ではなく、自社の受注案件を遡って作り、記録が残る行動に置いて4〜5段階に収めます。読むときは、時間のずれと獲得元の違いに気をつけます。落ち幅の大きい段階を1つ選んで手を打つための道具として使ってください。
確認リスト
- 受注案件を遡って、必ず通る行動を書き出した
- 記録が残る行動だけを段階にした
- 段階は4〜5個に収めた
- 各段階の記録がどこにあるか把握している
- 獲得元ごとに分けて見られる状態になっている
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